第20話

「まったく萎えちゃうわ……」




 暗闇に浮かぶドアを開けると腐ったような異臭と男の絶叫が漏れ出す。



 口元に笑顔を浮かべ中に入り背でドアを閉める。部屋には店と同じ火が入った暖炉があり、その揺らめく光が暗闇を照らしている。




「あっ、がっ……だ、だすけて……ウソっ、つぎやがって!!」




 部屋の壁には等間隔にフック型の鉤爪が光っていて、その一つに頭を鉤爪に串刺しにされ壁に掛けられた男が泡を吹き血の唾を吐き出しながら叫んでいた。




「嘘つきなんて心外だわ。胃から病気を取り除きたいと言ったから、ちゃんと綺麗にしてあげたでしょう?」



「ちっ違うぅっ、じっ死にたく……たくなぁぁ」




 口を鯉のようにパクパクとさせ目の焦点も左右ともあらぬ方向をむいて今、生きていることが不思議なほどだ。



 オセは眉尻を下げて男の腹に手を当てるとそのままズブズブと手を腹に埋めていく。



 男の腹に手が埋まっていくたびに血が流れ床に血だまりを広げる。




「えっと……これよね?」



「ぐはっ、やっ、やめろ! やめてくれぇぇ!!」



 腹の中を掻き雑ぜる手を止めたオセは、血と唾をまき散らし体を痙攣させる男の顎を舐め一気に手を引き抜く。



 男の懇願も空しく引き抜かれたオセの手には綺麗な胃袋が握られていた。



 力なくダラリと垂れる身体は痙攣を繰り返すが鉤爪に掛けられた頭だけは俯くことも許されず光のない目がオセを見つめている。




「嘘じゃないでしょう? 他の箇所は病気でボロボロみたいだけど……あら? もう聞こえてないみたいね」




 残念そうに肩を諌めると店に繋がるドアが開きシュトリが眉根を寄せていた。

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