第18話

「美味しそう!」



「肉の間に野菜を挟み、ミルフィーユのようにしてみました。ゆっくり味わって食べてください」




 お皿の横に置かれたナイフとフォークを取り、料理にナイフを入れた。



 ほんのり赤くてとろみのあるソースを絡めて口に入れる。




「おいしい~本当にこれがダイエット食なの?」




 瑠衣がイメージしていたのは病院食のような薄い味に質素な料理だと思い込んでいたので、しっかりとしたボリュームと味に感動を隠せなかった。




――これなら続きそう! でも、食事制限とか運動メニューがでるのかしら?




「明日もこちらに食事に来ていただければ、今まで通りの食事に運動も必要ありません」



「本当に?!」




 シュトリは「えぇ」とだけ返事をして目を細めて笑う。会話が途切れ瑠衣が料理を夢中で食べ舌鼓を打つ。



 あっという間に皿は空っぽになり、瑠衣は至福の表情で食後に出された珈琲を飲む。




「ご馳走様でした。正直、こんなに美味しい料理を食べられるとは思ってなかったんで感動です。ダルヴァザを教えてくれた小瀬さんにもお礼を言わなくちゃ」




 話を聞きながら瑠衣が預けた荷物を暗い影から持って来てニッコリ微笑み帰宅を催促する。



 瑠衣は飲んでいたコーヒーカップを置くと、慌てて席を立ちシュトリから荷物を受け取った。




「すみませんゆっくりしてしまって。ご馳走様でした! 明日もよろしくお願いします。お会計を……」




 バックから財布を探す瑠衣の手を止め、シュトリは首を振る。




「最後に満足することが出来たら頂きます」



「えっ?!でも……」



「あなたはただ毎日この店に通い、理想の体を作ることです。あとこの店のことは他言無用ですよ」




 店の扉を開けシュトリの目が細められると瑠衣は何も言えずに頷き、軽く背を押され店から出る。



 後ろを振り返るとシュトリが口元に白い指を一本立てウィンクして扉を閉めた。



 瑠衣は身震いすると腕に掛けたままのジャケットとコートを着込むと、来たとき同様に薄暗い階段を逃げるように下りた。

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