第17話

「それでは、あなたの要らない体の肉はどこですか? 一箇所ずつ削いでいきましょう」



「肉……一箇所だけならお腹の肉が少し出てきて気になってます」




席について顔の火照りを気にしながら質問に答えると、男の薄い唇をが横に伸びる。



食べてダイエットできる店だと教えられたのだから、恥ずかしがっても仕方ないのだと言い聞かせた。




――それより、会ったばかりのこんな胡散臭い男にあんな妄想をする自分が恥ずかしい!




胸を押さえて思い出すだけで全身に走った快楽が脳裏に蘇り体が熱くなる。




「では、今日はお腹の肉を使った料理を召し上がっていただきましょう」



「お腹の肉……バラ肉を使った料理ですか? 脂肪が多くて太りそうなイメージですけど」



「ご心配なく。切り取って食べるので、ほとんどが排泄されてしまいますよ。それと、忘れる前にこちらを……」




 黒い革紐を三つ編みにしたものを取り出して見せ、瑠衣の手を掴んで手首に巻きつけた。



 突然の行動に手を引く間もなく手首に黒い革紐は固く結ばれてしまう。




「あの、これは?」



「呪い[マジナイ]のようなものです。毎日ここに来ることを忘れないように、続けなければ意味がありませんから。それでは料理を準備します」




 瑠衣が自分の手首に巻かれたものを気にしている間に男はニタリと笑いカウンターの影から包丁を引き抜き、まな板に突き立てた。




「痛っ!」



「それでは奥で調理してきますので少々お待ちください」




 何処から出したのか、まな板に肉の塊を乗せて瑠衣の前から去って行く。



 一瞬走ったお腹の痛みに首を傾げ、擦りながら奥に消えていく男の背を見送った。




――よかった痛みが引いて。それより勝手に人の手首にこんなもん巻いてなんなのよあの男!




 誰もいなくなった店内を座ったままぐるりと見回す。アンティークな照明や家具に暖炉がお洒落で落ち着く感じだ。



 ただ、暖炉で燃える炎がそう見せるのだろうか不気味な雰囲気がどうしても拭いえない。




――やたらと影が濃い感じがするのよね。店の名前もなんだっけ? ダルなんとか




「ダルヴァザですよ。私はこの店の主、シュトリと申します。料理が冷める前に召し上がれ」




 まるで心の中を見透かされたように紹介する声に肩が上がり、横に向けていた顔をゆっくりと前に戻す。




――いつ戻ったの? この人も、なんか気配がない感じが不気味よね。




 カウンターに置かれた料理から立ち上る香りに頭によぎった不安は吹き飛んでしまう。

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