第16話

燃える炎の揺らぎに不安定な気分が落ち着きを取り戻しはじめた矢先、背後で男の声が響く。




「参考までに、貴方の誇れる体のパーツはどこですか?」




声に振り返ると預けた荷物は手から消え、影を背負い男が近づいてくる。



不規則に燃える炎の明かりが男を一層不気味に見せる。今度こそ不躾な言葉に文句を言ってやろうと振り返った瑠衣だったが口から出た言葉は違うものだった。




「……胸。胸は良いって真一が褒めてくれたから」



「見せて」




瑠衣は素直にブラウスのボタンを上から外しブラジャーの前ホックを取ると、ブラウスの前を広げ男に胸をつき出す。



男は胸が良く見えるように肩をつかみ瑠衣の向きを変えた。



暖炉の炎が瑠衣の胸を妖艶に照らす。男は肩から氷のように冷たい手を滑らせ瑠衣の胸を丹念に愛撫する。



口をあけ恍惚とした目を男に向け、知らず熱い息を漏らしていた。




「まぁ、悪くないか……」




固く上を向いた蕾を長い舌でベロリと舐めると瑠衣は甘い声で鳴き、男は満足したように舌なめずりをして指を鳴らす。



胸を晒し一人上気している瑠衣が意識を取り戻し、はっとしたように胸を隠した。




「あれ? 着てる……えっ?! なんで?」




――この男に胸を触られて変な声を上げた気がしたんだけど、なに? 私の妄想?




いつ移動したのかカウンターから男が顔を赤くしてきちんと閉められたブラウスのボタンを何度も確認して混乱する瑠衣に声を掛ける。




「こちらに座ってください。料理を用意します」



「今、変なことなかったですよね?」




羞恥はあるが胸に残る生々しい感触をどうしても無視できず男に尋ねると、鼻で笑われる。




「もう十分、体は温まったでしょう? こちらどうぞ」




男の反応に自分の淫らな妄想だったのだと、さらに顔を上気させカウンター席に向かった。

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