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第15話

ヒールの音を響かせ薄暗い階段を登り切った先には上部がアーチ状になった木の扉が待ち構えていた。




「あんな場面をみたから少し動揺して不安定になってるだけ……食事をして今日は帰って寝る」




扉のノブを掴み自分に言い聞かせ、勢い任せに開くと誰もいないカウンターに空席が並び、薄暗い照明の店奥には赤々と燃える暖炉が目を引く。




――やってないのかしら? でも、外の電気が点いたんだから人はいるはずよね?




店内に一歩入ると横から男の声が聞こえ、驚きにバックを床に落とす。




「いらっしゃいませ。ようこそダルヴァザへ」




長い黒髪を一つに結び、黒いシャツとズボン。全身黒づくめの服装と店内の薄暗い照明のせいなのか、やけに白い肌が浮き立って見える。



落としたバックも拾わずに男を凝視していると、瑠衣の足元に落ちたバックを拾う。




「コートお預かりしましょう。奥の暖炉で温まってください」




男と視線が合うと奈落の底に繋がる穴のような瞳に背筋が冷たくなる。



逃げ出したい衝動に駆られていたが、今になって階段を駆け上が ったせいなのか膝が笑って動けない。




「あの……私、これを……」




握りしめてクシャクシャになっていた黒い名刺をコートの代わりに男に差し出すと、男の真っ赤で薄い唇が左右に引き伸びる。




「太井田 瑠衣さん。心配しなくてもオセから連絡を受けています。さぁコートを脱いで」




店を間違えている。帰れと言ってほしかったのが瑠衣の本心だったかもしれない。



自ら逃げ道を無くしてしまい、逆らうことも出来ずにコートを脱いで男に渡す。




「ジャケットも預かりましょう」



「さ、寒いのでいいです」



「体のラインが良く見えないので……痩せにきたのでしょう?」




男は片眉を上げ不機嫌な様子を隠すことなく瑠衣を挑発するように話す。



瑠衣も顔を歪めて渋々ジャケットを脱いで渡した。




――嫌な感じ。もうこれ以上は脱がないわよ!




不躾な男の態度に恐怖が薄らぎ膝の笑いも止まった。男から距離をとるように奥の暖炉に足を進める。

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