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第13話

「太井田さん。お客様を下までお送りして」



「分かりました」




 ビルの入り口までしっかりと見送りを済ませホッと胸をなでおろす。




――このまま順調に話が進めばひと段落つきそう




 旨くいった打ち合わせに少しだけ瑠衣の気分が上がり、伸びをして戻ろうとした時に奈落の底へと叩き落される。




「……真一?」



 大通を挟んだ向かい側に真一が女と抱き合っている姿を見つけて凍りつく。




――よりによって何で私の会社の前?新しい女を連れて別れ話でもしにきたの?




 疑惑と不安が一気に覆い尽くし目の前が暗くなっていくようで、ふらついて壁に寄り掛かる。



 絶望とも言える気持ちの中に、もしかしたらと言う希望にすがりポケットにある携帯電話に手を伸ばす。



 携帯電話を取り出すのと一緒に一枚の黒い名刺が落ちた。



 黒い名刺を拾い上げ大通りの向こうにいる真一の姿をもう一度見る。



 会話は聞こえないが照れながら見つめ合う姿に一筋の希望は真っ黒な名刺に吸い込まれたように消えた。




「もう、いいわ……」




 取り出した携帯電話をポケットに戻し名刺を片手にオフィスに戻る。




――自分の為にダイエット。新しい私になるんだから!




 瑠衣の目には黒い炎が燃え涙をすべて干上がらせ、僅かに残っていた真一への愛情すらも焼き尽くしてしまった。

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