第2話
中では驚いた顔の真一と若い店員の女の子がペンを握っている姿。
「こちらになります……」
「有難うございます」
知らぬ顔で真一の向かいの席に腰を下ろす。テーブルには携帯番号が書かれた紙ナプキンが置いてある。
「あっ、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
慌てて取り繕いその場を立ち去ろうとする女店員を瑠衣が呼び止める。
「ごめんね。生の大追加してもらえる? あっ、それとも注文は貴方の携帯に直接かけるのかな?」
ニッコリ微笑みテーブルにある携帯番号の書かれた紙ナプキンを見ると、女店員はさっと顔を青くして紙ナプキンを握りつぶす様に取り去る。
「ごめんなさい……」
涙目を浮かべてその場を小走りに出て行く。案内してくれた店員が「すみません」と瑠衣に頭を下げ、すだれをおろして去って行く。
「怖いんだけど……可哀想にあの子泣いてたよ」
「あんなの演技に決まってるでしょう? 若い子ナンパして貢がされる前に止めて上げたんだから感謝しなさいよ」
ジャケットを脱ぎながら全くナンパをしていたことを悪びれもしない真一に女の現実を吐き捨てる。
遅刻を詫びようと考えていたが、ナンパを目撃した後に素直に謝るのは無理というもの。
「瑠衣が遅刻ばっかりするのが悪いんだろう」
「それじゃそれは謝る。ごめん。だけど、真一だって謝るべきじゃない?」
「あぁ、ごめん」
いつからか喧嘩して怒っても熱くなることが無くなった。
付き合いが長くなってきたからなのか、喧嘩に割く時間が無駄だと思うからなのか
――愛情が薄くなってきてるのかな。
虚しさを溜息でやり過ごしていると、注文したビールや料理が運ばれてくる。
若い男の店員が注文した品をテーブルに置き終って下がると、真一は口を尖らせた。
「店員変わっちゃった……」
「彼女に待たされてるような、たいしていい男じゃなかったからじゃない?」
「わぁ~可愛くないな」
軽く文句を返しクツクツ笑いながら運ばれてきた刺身に箸を伸ばす。
子供っぽくて甘えたなところが真一の魅力だった。今は何事にも悪びれず自分にない素直な物言いが痛い。
――彼氏相手に劣等感を持つとか相当疲れてるな私。
ビールの大ジョッキを掴んで半分ほど一気に飲み干す。
「なぁ、今日は泊まっていけるの?」
「うん平気。明日の夕方にちょっと仕事すればいいだけだから」
「明日って日曜だよ? 日曜も仕事かよ……」
また真一に不貞腐れたように呟かれ、うんざり顔と溜息をビールで飲み込んだ。
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