Derweze

1

第1話

人の行き交う道をヒールの音を響かせ足早に歩く女。横断歩道で歩みを止められ、苛立ったように腕時計を確認する。




「まずい……今日も遅刻」




 呟きと溜息を吐き出すと信号が変わり、周りの人々が動き出す。



 女は顔を上げて人を縫うように早歩きは小走りに変わっていた。



 足の先が痛くなる頃に目的地の居酒屋が見え、ほっと息をついて少し手前でショーウィンドウを鏡に身なりを整えて入る。




「いらっしゃいませ!」




 店のドアを開けるとジョッキを運ぶ店員が元気よく迎えてくれた。



 ジョッキをテーブルに置いてすぐさま対応にやってきた店員に尋ねる。




「太井田 瑠衣[タイダ ルイ]か、宇野 真一[ウノ シンイチ]で個室を予約してあると思うんですけど」



「ちょっと待ってくださいね! えっと……」




 レジカウンターに向かい予約を確認してくれる。予約も真一任せで、もう30分以上は待ち合わせ時間から遅刻していた。



 加えて瑠衣が遅刻をするのは何度目になるかと考えただけで眉間に皺が寄る。




――もう帰ってるかもしれない。




 居なければ仕方がないと店員の返事をソワソワしながら待っていると、笑顔を見せられる。




「宇野様の名前で予約されてます。もう個室のほうでお待ちです」



「……よかった」




 店員に「もうお待ちです」と言われただけでも、顔が引きつる思いがするのに個室で待つ真一に会ったらどんな思いをするのだろうか。



 純粋に真一に会える喜びは、これから文句を言われるだろう憂鬱な気持ちに消されていく。




「こちらです」




 案内されたのは個室と言っても、すだれが掛かり少し目隠しされている程度のもの。



 少し近づけば人の気配も会話も筒抜け。すだれを上げる前から一人で待っているはずの真一が女と会話する声が聞こえ首を傾げる。



 案内してくれた店員がすだれ越しに「失礼します」と声を掛けるが、よほど中で話が弾んでいるのか気づかない。




「連絡先交換しようよ。LAINでもいいしさ……」



「いいんですか? 彼女さん嫌がるんじゃないですか?」



「いいの! こんな良い男を待たせるあいつが悪い」



 丸聞こえの会話に瑠衣を案内してきた店員が気まずそうに、もう一度声を掛けて今度はすだれを上げた。

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