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第3話
内容のない会話をしてお腹が満たされた二人は居酒屋を出る。
「お腹いっぱい!」
酒がいつもより回った瑠衣は足元をふらつかせて寒空に白い息を吐き出して笑う。
真一はそんな瑠衣の腕を捕まえ背中を抱え込む様に抱きしめ耳元で囁く。
「早く帰って温まろう?」
「十分、温かいよ~」
「もっと温かくしてやるから」
今からならレイトショーの映画だって夜景を見に行くことだって真一となら温かい。
そんな素直で可愛い言葉は日々の疲れと不安に阻まれてしまう。下手な会話はいらない。
――浮気や別れ話を切り出されるのが怖い。
肩を並べて居酒屋からほど近い真一のマンションに到着し、エレベーターに乗り部屋の前に着く。
真一は焦ったように鍵を開け瑠衣を押し込みカチリと鍵を閉める。
――獣に変わる合図。
待ちきれないように二人の唇が合わさり、リビングに灯る常備灯のオレンジ色を辿るように部屋の奥に移動する。
服が一枚づつ床に落ちてゆくたびに呼吸は荒く乱れ獣に落ちていく。
「ふ、風呂に……んっ……」
欲に溺れる前になんとか瑠衣が要求の言葉を発するが、真一はお構いなしに肌を探り答えの代わりに唇を合わせた。
――今日も流されるのか。
二人の欲望は違う。快楽と安らぎ、体と心。求めるものがお互いに違うのに繋がる違和感。
心が無くても獣の遊戯は続けられ真一の胸に両手をついて跨ったまま瑠衣の動きが止まる。
「どうした?」
言葉を掛けられた振動さえも真一を咥えこんだ場所から痺れるような違和感が駆け上がる。
――伝わればいいのに
真一は何も言わず俯く瑠衣の体を確かめるように胸の頂をなぞり、腰を掴んだところで手を止めた。
一瞬この寂しさが伝わったのかと淡い期待に瑠衣は顔を上げ真一を見つめる。
「どうしたの?」
「いや、瑠衣……」
何時になく深刻そうに悩んだような表情を見せる真一に続く言葉に期待を膨らませた。
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