第9話
私はお弁当を片手に雪絵に片腕を引っ張られたまま学食に移動。
「こっちこっち!」
人でごった返す学食で私たちを呼ぶ村田君を発見。
私の腕を掴む雪絵は飼い主を見つけた犬のように反応する。
尻尾があったら千切れんばかりに振っているのだろうと思うと可愛くて笑ってしまう。
雪絵は「早く行こう」と掴む手に力を入れた。
側に行くと、村田君の隣が二つ並んで席が空いていた。
よくこの混み合った学食で席が取れたと吃驚する。
「二人とも座って」
「どうも」
軽く頭を下げて村田君の隣を雪絵にそっと勧めると小声で「恥ずかしいから」と背中を押され私が村田君の隣に座る。
私も男子の隣で食事するのは緊張するよ。
「二人は何食べる? 良かったら僕、取りに行ってくる……二人ともお弁当だったんだ。ごめん、わざわざ学食に移動させて」
私と雪絵は二人揃って首を振った。初めて来た学食に少なからずワクワクしてるし。
「おい、大志。早く食わないと時間なくなるぞ」
「今回はまた珍しい感じの子をナンパしてきたね」
テーブルの向かい側に座っている男子が、村田君をからかうように話す。
村田君の友達かな? これって、ナンパだったんだ?
「人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ! 小陽ちゃんと……友達の名前なんて言うの?」
「川島 雪絵です」
前の二人がゲラゲラ笑うなか雪絵が恥ずかしそうに答える。
名乗った記憶がないけど私の名前をなんで村田君は知ってるんだろう?
自分の記憶を探る為に無言で村田君を見ていると、慌てたように村田君が話す。
「本当にナンパとかじゃないから! 名前も、雪絵ちゃんがさっき呼んでたの聞こえたからだよ」
「あぁ……それじゃ、苗字は知らないよね。山木です」
納得して笑顔で答えると、ホッとしたように村田君も人懐っこい笑顔を見せた。
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