誘い
第8話
雪絵に急かされつつ着替えを終えジャージを丁寧に畳みB組に向かう。
当然、動いていないので汗はかいていないが洗って返さなくていいのか迷っていると雪絵が目を輝かせて手招きしている。
「小陽ちゃん。行こう!」
私は苦笑いをしながら雪絵と一緒にB組の村田君を探す。渡すときに直接確認すればいいかと雪絵に従った。
教室の近くまで来ると丁度、昼休みを告げるチャイムが鳴り教室から人が出てくる。
「居た!村田君、こっちに来るよ」
雪絵が村田君を見つ騒いでいると、向こうも気がついたのか駆け寄って来た。
「ジャージ大きくなかった?」
「少しだけ……でも助かったよ有難う。ジャージ洗って返したいんだけど」
人懐っこい笑顔を見せる村田君に隣にいる雪絵は顔を赤らめて見つめている。
「いいよ気にしなくて! それに僕、次の授業が体育で使うんだよね」
このまま私がジャージを渡さないのは困るよね。申し訳ないけどこのまま返すしかなさそうだ。
「ごめんね。本当にありがとう」
丁寧にお辞儀をしてジャージを返すと「どう致しまして」と笑顔で受け取ってくれた。
なんだか気まずくて早々に退散しようと、うっとりと村田君を見つめている雪絵の腕を掴んで自分の教室に向かおうと踵を返す。
「ねえ! もし良かったらお昼一緒に食べない? 友達も一緒にどう?」
村田君の声に驚いて振り返る。当然、断るつもりでいた私に代わり雪絵が返事をする。
「食べます!」
「えっ?!」
食べるの? 一緒に? 何とか言葉は飲み込んだが、驚いてそのまま口をポカンと開けて雪絵を見ていた。
「それじゃ、先に学食行って席取っておくよ」
爽やかな笑顔を残し、学食に走って行く村田君。
呆気にとられて口を開けて固まる私を、今度は雪絵が引っ張る。
「村田君が待ってるよ急ごう!」
「私、お弁当だよ」
「私もだよ。持って行けば問題なし!」
私が病気で休んでいる間に今時の女子高生は積極的になったのかと感慨深く感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます