第74話

「騒がしているのはどっちだか……煩いですよ」


「いつも神経を逆撫でするようなことばかり言いおって! 右京、聞いてるのか!」


「嫌でも聞こえますよ。全く煩いことで……」



 臆することなく悪態をつく右京の隣で尻餅をついて大天狗を見上げていたのが悪かったのか大天狗と目が合う


 ニヤリと恐ろしい笑みを向けて右京から俺に的を変えて訊いてくる。



「お前、右京の下で修行している烏だな。今ここで何をしていたのか申せ」



 人の世に烏天狗が深く関わることは良しとされていないのは俺でも知っている。


 正直に答えたら薬を取り上げられ最悪、右京と共に天狗の山を追放されてしまうだろう。


 けれどこの大天狗を前にしれっと嘘をつく度胸も図太さも俺にはない。


――俺が嘘をついてもすぐにバレるだろうし。


 考えあぐねていると苛立った大天狗が吹き飛んでしまいそうな怒鳴り声を再び上げた。



「早く答えぬか!」



 薬と自分を守るには無言を通すしか手が無いとギュッと目をつぶると、体を抱えられ目を開くと右京が大天狗を睨みつけていた。



「大人げない……弟子を脅すのはやめて下さいよ。狸の山でいい酒が出来たと聞いたので、腰痛の薬と交換で分けて貰う約束をしたんです。だから、その薬を造っていたんですよ。お騒がせしてすみませんでした」



 右京はスラスラと嘘を並べて答えて謝ると、懐から小さな巾着袋を取り出し薬壺から出来たばかりの丸薬を詰めて俺の首に掛ける。



「お使い頼んだよ烏! 早く行っておいで」


「待て! まだ、話はすんで……」



 大天狗が俺を呼び止めるが、右京が片目を瞑って早く行けと背を押してくれたので俺は翼を広げその場から逃げるように飛び立った。


――ありがとう右京。


 俺は一度、杉の木の寝床に寄って首にかけられた巾着袋に大切にしている宝物の一つを入れ、大天狗に見付からないように注意しながら小陽のもとに飛んだ。

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