第73話

「煩いのが来てるね……早く薬を持って行きな」



 空を見上げる右京に何事かと首を傾げ俺も空を見上げると大きな羽音が聞こえ、突風と共に大きな体が振ってくる。


 地響きに俺の体が浮き上がったかと思うと、俺達の前に不機嫌な顔をした大天狗が仁王立ちしていた。


 その迫力に圧倒され俺はまた腰を抜かして震え上がる。



「右京、今度は何をした!? 天狗の山をまたも騒がしおって!」



 体が吹き飛んでしまいそうな大天狗の怒鳴り声に、上げようとした腰がまた地面にぺしゃんと落ちる。


 右京は嫌そうに顔を歪めるだけで、全く大天狗に臆することもなく胡座をかいた上に薬壺を乗せて軽口を叩く。



「そんな真っ赤な顔をして怒鳴らなくても、聞こえてますよ……」


「なんだその壺は? 先程もうろちょろと社の周りをうろつき、何を企てているんだ」


「見たまま壺ですよ。企てているなんて人聞きの悪い……薬草を少し頂いただけです。社に来ているのを知っていたなこそこそ隠れて見てないで声を掛けてくれりゃわざわざ、こんな所までご足労いただかなくても良かったのに」


「こそこそしていたのはお前だろう右京!」



 鬱陶しそうに嫌味を乗せて早く帰れと言わんばかりの右京の態度に、大天狗の太い眉が釣り上がり怒鳴り声が天狗の山に響き、木々からまた驚いて飛び出す鳥の姿が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る