第70話

「今ならこの烏が集めた病を小陽ちゃんの体に戻して病をおとなしくさせられる」


「おとなしくさせる? それじゃ治らないんだろう?」


「完治はしない。いままで通りってことさ……まぁ、烏が体を張って病を運んだことが無駄になっちまうけどね」



 いままで通りでは小陽はいつまでも苦しくて、死に怯えて夢や希望を諦めて生きていくってことだ。


――人間が治療するのは難しくて、こんど大きな発作が起きたら危ないって。


 その発作もいつ起きるのか分からず、死を怯えて待つしか無い状況で生が掴めるなら戦うべきだ。



「病は戻さない。薬を小陽に飲ませる」


「殺す覚悟が出来たのかい? 薬を飲ませるということは生か死のどちらかしか無い。小陽ちゃんが病に負ければ、幾ばくか生きられた時間を奪いもしかしたら人間の治療で治るかもしれない可能性も奪う。そうなった時、烏にそれが背負えるのか?」


「あぁ、どうなっても全部、俺が背負う」



 まだ震えの残る足を踏ん張って胸を張り右京にはっきりと宣言した。


 俺の宣言に右京はなんだか泣きそうな顔をして「馬鹿だねぇ」と呟き溜息を吐き、薬壺を抱えたまま歩きだす。


震える足を動かすのに手間取り少し距離があいてしまった。


 右京の姿を見失わないように必死になってピョンピョンと跳ねながら追う。


 思い出したように右京が歩みをゆるめて、後ろから追いかける俺に視線を向け話す。

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