第68話

右京は持っていた杯を乱暴に地面に置くとフーッと息を吐いて転がっている俺を睨みつけた。


 その刹那、その場の空気が右京に圧縮されてしまったような息苦しいものに変わった。


 ただならぬ威圧感に体を針でさされているような感覚に冷や汗が流れ、その場から少しでも動いたら流れる薄い刃物のような風に全身を切り刻まれてしまいそうで一歩も動けない。



「口ばっかりだと? 甘ったれるな! 何も出来ないのはお前だろう。八つ当たりとはいい度胸だ」



 ぐうの音も出ないほどに右京が正しい。


 自分が何も出来ないことに憤りを感じて疑心暗鬼になり八つ当たりをした。


 殺意すら感じる右京の視線を真正面から受け止めてなんとか尻餅をつかないように踏ん張って嘴を開く。



「う、右京の言う通りだ……でも、俺は小陽を助けたい」


「俺に人間の小娘を助ける義理があるか? それに薬が出来たところで、飲んだ本人に生きる意志がなけりゃ効果は無く死ぬだけだ」


「そんな……」


「最後は本人が病と戦って生を勝ち取る……当然、負ければ死ぬ」 



 ぴしゃりと右京に言われ絶対に治ると信じていた気持ちが崩れていく。


――しかも、負けたら死ぬなんて聞いてない。


 最初に右京が薬の話をしていた時に負けたらなんとかと言っていたかも知れないが、俺は病が治ることしか考えてなかった。


 こんなことなら最初から小陽に薬のことをきちんと伝えるべきだった。

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