俺にできること

第67話

二本の古い大木の合間を抜け霧の中を真っ直ぐに突き進み天狗の山が見えると、右京の元へ一目散に向かい縋り付くように右京の胸に飛び込む。



「右京、すぐに薬を造ってくれ!」


「なんだいそんなに慌てて。いま大天狗の社から天狗草をこっそり摘んできたとこなんだから休ませておくれよ」



 金色に輝く天狗草を片手に見せて、俺を小脇に抱えるとゴザの上に胡座をかいて座り脚の上に俺を座らせて酒の杯を取りだす。


 その片手間に俺の体から病を抜き薬壺の中に天狗草と一緒に放り込むと、酒を注いでグイッと一杯飲み酒臭い息を吐く。



「おい、飲んでる場合じゃないんだ。小陽が倒れたんだ!」


「あぁ、やっぱりね……」



 当然の事のように右京が返事をするので俺の頭は混乱して言葉を失う。


――右京は小陽が倒れると知っていたのか? それとも何かまた隠して騙してるのか?


 疑心暗鬼になり無性に腹が立って、酒を注ぎ入れたばかりの杯を持つ手を嘴で挟んだ。



「イテッ! なにすんだい!?」


「右京が治るって……良くなるって言ったじゃないか! なのに……また嘘なのかよ!! 口ばっかりじゃないか!」



 悔しさにもう一度、右京の手でも啄いてやろうとするがその前に体を掴まれ放り投げられる。

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