第66話

――なんで病を吸い取ってるのに悪くなるんだよ!


 無力な俺にはこれ以上なにも出来ず、普通の烏と同じに大声で鳴いて小陽の母親を呼ぶのが精一杯だった。


 俺の鳴き声を聞きつけ部屋へやって来た母親はベッドで苦しそうにしている小陽に駆け寄り、抱きしめて声を掛け四角い板に必死な様子で訴えている。


――また、何も出来ない。


 外のベランダの手摺に移動してまたこの間と同じ事の成り行きを見ているしか無いことに憤りを感じるしかなかった。


 少しすると煩い音のするあの白い車がやってきて、運ばれていく小陽を見ていることしか出来ない無力な自分も全く変わっていなくて悔しさに鳴き声を上げて、嘴を飛び退いた先のベランダの手摺に打ち付ける。


「話せるようになったて意味なかった……」


 浮かれて肝心なことを伝えなかった俺のせいだ。


 病院まで小陽を追いかけて枝に留まり、ただここでこうして悔やんでいても小陽は元気にならない。


 出来ることをするしかないと、俺は重い体と心を翼に乗せて天狗の山に向かって飛び急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る