第60話

「右京って嫁とか居るのか?」


「ゲホッゲホッ、何言い出すんだよ! そんなの居るわけないだろう。一緒にいるお前が一番知ってるだろうに」


「それじゃ俺が弟子になるまで一人だったのか? それは寂しそうだ……欲しいと思ったこともないのか?」


「まったくいらぬ世話だよ……今は煩い弟子にこき使われて寂しいなんて思う間もないよ」



 咳き込んで零れた酒を着物の袖で拭い、右京は力なく俺に笑いかけ頭を撫でてくる。


 右京はずっと弟子の烏をとらず俺がはじめての弟子だと聞いたことがあるが、それまでの間がどれほどなのか分からない。


――右京だって寂しいときだってあっただろうな


 いつも飲んだくれているのは寂しさを紛らわす為だとしたら、お酌の一杯くらいはしてもバチは当たらなそうだ。


 烏天狗になったら晩酌に付き合ってやるのもいいかもしれない。


 まだ見ぬ夢を思い描いていると右京が新しい酒を杯に注ぎながら訊く。



「フフッ、やけに変な事を訊くのは小陽ちゃんにプロポーズでもするつもりだからかい?」


「ぷろ? ぷろ……ぽおず?」



 聞いたことのない難しい言葉に首を大きく傾げる。

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