第58話

からかわれるかと一瞬躊躇するが喜びに浮かれている気持ちを隠しきれず右京に話す。



「俺が烏天狗になったら小陽と一緒に食事に行く約束をしたんだ!」


「そりゃ、遠い約束をしたもんだ。叶うのはいつだろうねぇ。生きているうちだといいけど……」



 意地悪い笑みを浮かべた右京にそう言われ、会話が出来るように体に溜まっていた気を使ったから、烏天狗になれるのがいつになるか予測がつかないと言われたのを思い出す。


 人間の小陽と俺の生きる時間も感覚もきっと違うし、小陽の病がもしも治らなかったらと最悪な考えが浮かぶが、すぐに頭を振って消す。



「嫌なこと言うなよな……それ以外にも、やりたいこととか夢を考えるように言っといたんだ」


「それじゃ、もう薬のことは話したのかい?」


「まだだぞ。薬を飲ませたら言うんだ……病が治ったっていったらどんな顔するだろ」



 はやる気持ちに笑いが込み上げて体を揺らしていると、右京が酒を飲んでいた杯を休めてボソリと呟きニヤリと笑う。



「惨いことをする……」



 右京の呟きに笑いを止めて小首を傾げるが、それ以上は何も言わずまた杯に口を付けて飲みはじめる。

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