第57話

「急に腕を解くなよ!」


「そんなにヘロヘロになってまで頑張るなんて流石だねぇ。よっ、なりは黒いが色男!」



 なにがそんなに面白いのか腹を抱えて更に笑い転げる右京を、冷たい目で睨み重い体でなんとか立ち上がる。



「くだらないこと言ってないでさ明日、最後の病を持って帰ったらすぐに薬って出来るのか?」


「つまらない烏だねぇ。洒落が分からないなんて……そんなに急いで欲しいのかい?」



 クスクスと意地の悪い笑顔で首を傾げて俺を見下ろす。


――我が師匠ながら面倒くさい! 急いでいるのを知ってるくせに嫌な奴!


 心の中で悪態をつくも、お願いしている立場で右京の機嫌を損ねてやっぱり造らないなんて言われたら困るので、ここは我慢して頭を下げてお願いするしかない。



「お願いします。今日、小陽と約束もしたんだ」


「そんなに睨むなって……それで、なんの約束したんだい?」



 表情は隠すことはできなかったようで、右京は溜息をこぼし烏の隣に胡座をかいて座った。


 どこから出したのか、いつの間にか手には杯が握られ酒を注ぎながら嫌な笑みを浮かべている。

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