第55話
「よし、また明日な!」
やはり訊く間も無く翼を広げて逃げるように飛び去ろうとしていたが、何かを思い出した様に振り返る。
「もっとやりたいこと、考えといたほうがいいぞ」
そう言い残すと翼を広げてヨロヨロと大空へと飛び立って行ってしまった。
「やりたいことね……」
一人残され大空に消えていく烏の背に呟きながら溜息を漏らす。
家からもあまり出られず、明日も生きているかどうかの保証もないのに何を望めばいいのだろうか。
――考えたって仕方ないじゃない。
結婚したい夢だって、きっと叶わないだろうし先のことを考えると恐怖と絶望しか浮かばないのだ。
重く沈んでいく気分と同じように烏が飛んでいった空に、やっと戻った青空をどんよりとした雲が隠すように再び広がりはじめた。
「カラスさんが家に着くまで降りませんように」
明日の天気が晴れで烏に会えることしか私の頭には浮かばない。
やりたいことを幾つ考えてもそれと同じだけ虚しさが心を覆っていく気がして、怖くて耐えられず考えるのを止めた。
何も出来ず迷惑をかけているのだから、その代価に感情を殺してやりたいことなど考えずに静かに過ごすしかないのだ。
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