第52話

「誰の? 誰の嫁になりたいんだ?」


「えっ? 誰のって……」



 笑われるか馬鹿にされると思っていたのに、至極真面目に意外な質問をしてくるので慌てて背筋を正して烏と向き合う。


 彼氏さえまだできたことがないのに、いきなり結婚相手について考えることになるとは思いもしなかった。



「相手は決まってないよ。小さい頃の夢だけど……まぁ、いまもできたらと……」


「ふーん」



 ボソボソと話すと窺うように私の目をジッと見つめてくる烏の視線が卑屈な自分を見透かされてしまいそうで視線を逸し、私も質問を返す。



「じゃあ、カラスさんはなんで烏天狗になりたいの?」


「なりたいから。面白そうだろ?」



 当然だと言うばかりに迷いなく即答する烏に驚き、目を丸くしていると胸の奥がチクリと痛んだ。


――羨ましい。


 真っ黒な烏は生命力に溢れて眩しいのに、私の心は輝きもなくただ真っ黒でなんだかとてもちっぽけな存在に思えてくる。



「なんだよ、烏天狗になったら何だって出来るんだぞ!」



 黙りこくってしまった私に、烏は不安に思ったのか翼を広げて胸を張り烏天狗の素晴らしさを語りだす。

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