第51話

――烏相手になにを意識してるんだろう。


 益々、恥ずかしくなって顔が火照りはじめたのを隠すように私も烏から視線を逸して、ドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせる。


 羽繕いを終えた烏が嘴をカツカツと机に当て鳴らすと私の方に向き直り何度か嘴を開いたり閉じたりを繰り返した後に話しはじめた。



「えっと……そうだ、今日は小陽に訊きたいことがあったんだ。小陽はなにかしたいこととか、やってみたいことってあるか?」


「したいこと? 将来の夢みたいなことかな?」


 唐突に聞かれても病気になってから、そんなこと考える気にもならなかったし、どうせ叶いっこない虚しいものだと今は思っている。


 だからといって、そんなひねくれた思いを烏には知られたくなくて必死に考えるがこれといったものが浮かばない。



「なんだないのか?」


「そうだ、お嫁さん!」



 急かされて咄嗟に烏の足についたイヤーカフスが目に留まり、指輪の事を思い出して答えてしまった。


 小さい子供じゃあるまいし、これは無いなと恥ずかしさに口元を手で覆う。


 烏はジッと私の顔を見てくるが、笑うのを我慢しているのかどうなのかも分からず更に恥ずかしさに顔が火照っていく。

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