第36話
「小陽……こんにちは」
「えっ?!」
片言でも無くしっかりとした口調で挨拶されて目を丸くして烏を凝視する。
もしかしたらこの烏は誰かにペットとして飼われていて、挨拶の言葉を知っているのかもしれない。
――妙に人に慣れているのはそのせいかもしれないし。
私は気持ちを落ち着け、探るようにこちらを見ている烏と見つめていると烏は続けて嘴を開く。
「その、この間は驚かして悪かった……」
椅子に座ったままで本当に良かったと心底思いながら、瞬きを繰り返して烏を凝視する。
こんなの蜥蜴に驚いた比ではないが、椅子に座っていなかったら気絶はしなくても腰を抜かしてやっぱり倒れていただろう。
オウム返しの言葉ではなく、これは会話で人に慣れているなどという次元のものではない。
私は驚きのあまり声が出ずに鯉のように口をパクパクとさせて烏を見続ける。
混乱する頭がやっと少し冷静さを取り戻して言葉を返す。
「えっと、気にしないで……それよりも、カラスさん話せるの?」
「あぁ」
当たり前のことのうように烏が返事をするので、そのへんの烏も話しかけたら普通に話せるのかもしれないと考えてしまう。
または自分が病気になった間に、巷の烏は人の言葉を話せるように進化していたのかと整理のつかない頭でまたおかしなことを考えていた。
だがそんな細かいことはどうでも良くて、烏と会話が出来ることに体が震えてくるほどの喜びを感じていた。
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