第35話

仕方なく部屋に戻って言われた洗濯物を出そうと鞄を開けるが、あまりの落胆にやる気が出ない。


 鞄を置いて椅子に座り、机の上に置いたままになっている烏から貰ったビー玉とおはじきを見て思いつく。



「私も贈り物をしようかな」



 入院している間も遊びに来てくれていたようだし、あの蜥蜴だって吃驚したけれど烏なりの贈りものだったのだろう。


――何がいいかな? やっぱり光り物がいいかな?


 棚からアクセサリーの入った小箱を取り、机の上に広げ烏が喜んでくれそうな物を探す。



「小陽……」 



 ベランダから待ちわびていた声が聞こえ視線を向けると手摺に烏が留まっていて、思わず飛びつきたい気持ちを押さえ椅子から浮いた腰を戻す。



「こ、こんちは。来てくれてありがとう。留守にしていてごめんね」



 驚かさないようになるべく静かに言葉を告げると烏は首を左右に傾げて羽繕いをはじめる。


 言葉が伝わっているのか分からないが、それでも嬉しくて口元を緩めながら烏の表情を観察していると、意外と可愛らしい瞳が

太陽の光にキラキラと輝いて見えた。


 羽繕いが終わると、真っ直ぐに私の方を見て小首を傾げてみせると小さく嘴を開く

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