四羽

退院日和

第34話

天気は快晴、絶好の退院日和に高ぶる気持ちが押さえられずに何度も空を見上げて母親をせっつく。



「お母さんまだ?」


「もうすぐタクシーが来るから……あんまりはしゃぐと、すぐまた入院することになるわよ」



 思っていたよりも早く退院することになったし、私がいない間も烏がベランダにやって来ていたと母親から聞けば気持ちが高ぶるのを押さえるなんて出来るわけがない。


 やっと病院のそばに到着したタクシーに乗り込み、家路を走り出したタクシーの車内から外を見上げてソワソワと落ち着かない気持ちにスカートを掴む。


――退院する日を伝えてくれたと言ってたから、来てるかもしれない。


 タクシーが家の前に着くと、すぐに鍵を開けて飛び込むように家に入り二階の部屋に入るなり持っていた着替えの入った鞄をベッドに放り投げカーテンと窓を開けに向う。



「いない……」



 ベランダに出て周囲を見渡すが烏の姿もあの蜥蜴の姿も消えていた。


 少なからず期待に膨らんでいた気分が一気に萎んでいく。


 手摺に顎を置いて落胆している私に、下の庭から母親が声を掛けてくる。



「あら、来てなかった? ちゃんと伝えたけど相手は烏だから仕方ないわよ。それより洗濯する物をちゃんと洗濯機に入れなさいよ」


「本当に? 別の烏だったんじゃないの?」


「そんなことないと思うわよ。小陽なんて喋る烏はそうそういないでしょう?」



 半分は八つ当たりで母親を責めたが、自分の名前を呼ぶ烏だと言われると一匹しか思い当たらない。

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