第32話

「この右京特性の薬壺に、大天狗の社に絡みつく金色に輝く天狗草と病三日分。それを烏天狗……俺の気を入れて混ぜ合わせる」


「簡単じゃないか」


「能天気だね……病三日分ってのは烏が小陽ちゃんから病を吸い取り、自分の体に入れて運んでくるんだよ。下手すりゃ死ぬかもしれないよ」



 右京は意地の悪い笑みを見せて最後に物騒なことを言って脅かすが、きっとこれも俺を試して楽しんでいるんだろう。



「大丈夫なんだろ?! それより病が吸い出せるならわざわざ薬なんかつくらなくても良いんじゃないか? 右京が出向いて小陽から吸い出してくれよ」


「意外と賢いじゃないか。でもね、体の奥に住み着いた病は吸い出せない。一気にすべて吸い取ると魂まで引っ張っちまって死んでしまう。だから丸薬を飲んで最期は本人の力で病と戦わないと駄目なのさ。負ければ……」


「わかった! とにかく薬を造らなきゃ駄目なんだろう」



 溜息を吐き指先で俺の頭を撫で付けて「焦るな焦るな」と笑って薬壺の蓋を開けて中身を確認して、なにか思い出したように着物の袖を漁り紙と筆を取り出した。



「そうそう、この札を烏が飲み込んで小陽ちゃんに触れれば烏の体に安全な量の病が吸い取れるから」



 説明をしながら紙にサラサラと筆で何かを書き小さく丸めて俺に差し出す。

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