第26話

意を決して窓を啄いてみるが、なんの反応も得られずがっくりと嘴を下げる。


――やっぱり嫌われて会いたくないのか?


 きっと具合が悪くて眠っているか病院から帰っていないだけだと、いつ開くか分からない窓をベランダの手摺に留まって静かに待つが不安ばかりが募っていく。


 太陽が高くなりベランダの手摺を端から端までを跳ねて歩いてみたり時折、窓を啄いてみたりしたが俺の心と同じように太陽が沈んでも小陽が顔を出すことはなかった。


――具合、だいぶ悪いのかな。


 諦めてベランダの手摺から飛び立とうと翼を広げると、窓を覆っていた布が揺れた気がして翼をたたみ振り返る。



『コハル?!』



 窓に向って呼びかけると布がさっと開かれ、そこには驚いた顔をした小陽の母親が立っていた。



「あの子が話していた烏かしら?」



 小陽の母親は窓を開けて俺のことを値踏みするように窺い見ながらホッと息を吐いて弱々しく笑ってみせる。



「逃げないし人馴れしてるのかしらね。小陽から伝言を預かってるわよ。大丈夫だから気にしないで欲しいって。小陽はいま病院にいるけど状態も安定してるから明日には戻ってくるわ」

 

 小陽からの伝言に沈んでいた心が浮き上がり羽に風を含ませたように体が膨らむ。


――嫌われてないし、また会える!


 俺は嬉しさに飛び回って鳴きだしたいくらいなのに、小陽の母親は暗い顔をしてちっとも嬉しそうじゃない。


 不思議に思い首を傾げて母親の様子を黙って窺っていると口元に手で覆い涙を流しはじめた。

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