第19話

山を一つ越えては振り返り、木に留まって引き返そうかと考えるがあそこで待っていても俺に出来ることはないと諦めてまた飛び立つ。


 古い大木の間を抜けて霧の中を彷徨うようにフラフラと飛んで、天狗の山が見えた頃には辺りは暗くなっていて、俺の心も深く沈んで打ちひしがれていた。



「どうしたのさ烏? そんなに嘴を落として」



 行灯を灯して一人で酒を飲んでいる右京の前に下り立つと、脳天気に話しかけてくるので俺は顔を上げて睨んだ。



「小陽が倒れた」


「ふふっ、蜥蜴に腰を抜かしたかい?」



 悪戯好きの右京は小陽が蜥蜴を見て、驚いて腰を抜かすのを分かっていて俺に耳打ちしたのだ。



『活きがいい蜥蜴の一匹でもあげたら病気もよくなるさ』



 俺だっていつも右京に悪戯されて知っていたのに、まんまと右京の言葉を信じて小陽にあんな酷い目に合わせてしまった。


――本当に馬鹿だな俺


 嘴を地面にがっくりと落として悔しさと自分の情けなさに溜息しか出ない。



「なんだい? その小陽ちゃんって娘に嫌われちゃったのかい?」


「かもな……驚かして苦しめて倒れた小陽のそばでうるさく名前を呼ぶだけ。抱き上げることも容態を知ることも出来ないで帰ってきたんだ」



 片翼を広げて自嘲気味に話す俺に、やっと自分の悪戯が重大な事態を招いたことに右京は気がついたようだ。

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