第5話

腹が立ったが怯えたような顔に震える手を見てそれが虚勢なのだと分かり、絡まったままの嘴で鳴けば面白いように顔を引きつらせて後退るので、危害を加えられそうにないことに安堵した。


 俺がおとなしくしてやると、震える手で網に手を伸ばして俺に絡まっている網を丁寧に外していく。


 最後にその手を嘴で啄いてやろうかと思ったが怯える変な女は、怯えながらも怪我はないかと心配そうに俺に尋ねるので止めてやった。


 自由になった俺はぴょんぴょんと跳ねて女から距離をとり、もう一度ジッと顔を見てから一声鳴いて問題ないことを伝えると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


 なぜだかその笑顔がとてつもなくキラキラと輝いて見え、少しだが見惚れてしまった。


――光るものは嫌いじゃない。


 思い出すとなんとも苦々しくもあったが、あの輝くような笑顔はポカポカと胸の辺りが優しく温まるような不思議な気持ちにさせてくれる。


 嘴を緩ませて、もう一声大きく鳴いてクルクルと独楽のように回転しながら羽ばたき浮ついた気持ちを落ち着かせる。


――兎にも角にも今日の失態を右京にだけはしられてはならない。


 気持ちを引き締めると古い大木の間を通り、深い霧を抜け天狗の山を目指した。

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