8.不機嫌の鍵

第76話

次の日。


優衣は朝食も薬も済ませ、棚の中の洋服をベッドの上に並べている。


待ちに待った月曜日。


優衣は少しでも可愛い自分で、海人を待っていたかった。


「どんなのが好みなんだろう・・・」


優衣は持って来た洋服の中から、海人が好きそうな洋服を選ぶ。


そこへ椎名がノックをし、ドアを開け顔を出す。


「今、入ってもいい?」


「はい!」


ベッドの上に置かれた優衣の洋服を見るなり、椎名が駆け寄って来た。


「今から着替えようと思ってて」


椎名は咳払いをし、「いけない。仕事仕事」と1枚の紙を優衣に渡す。


その紙には検査の説明が書かれている。


「今から採血してもいい?」


「検査?」


椎名は廊下から注射器や消毒などを乗せたワゴンを引き頷いた。


「いいですよ」

優衣は洋服をベッドの端に寄せ、ベッドに座り、左腕を出す。


椎名は慣れた手つきで採血を済ませた。


「ありがとう。ねぇ、今日はどれを着ようと思ってるの?」


椎名は採血ラベルに日付を書いた。


「お気に入りの服を持って来たから、どれも好きなんだけど・・・」


優衣は洋服選びを再開させる。


「やっぱり女の子だね」

椎名も目を輝かせ、優衣の洋服を見つめる。


ワゴンを引きながらドアの前に行くと「じゃあ、また何かあったら呼んでね」と椎名は病室を出て行った。


優衣は病室の時計を見る。


10時。


「これにしよう」


着る洋服を決め、着替えると洗濯物を袋に入れ、引き出しの中のキーケースを取る。


「洗濯に行って来ます」


ナースセンターでパソコンを操作している椎名に声を掛け、屋上に向かった。


初めての洗濯。


椎名からもらった鍵で洗濯機と乾燥機の入った扉の鍵を開けた。


扉を引くと、小さな洗濯機と乾燥機が並べて置いてあるのがすぐに見えた。


「大丈夫かな?」


優衣は洗濯機と乾燥機を確認する。


こまめに掃除をしているのか、洗濯機も乾燥機も綺麗だった。


優衣は袋の中の洗濯物を入れ、さっそく洗濯機を回す。


久しぶりに聞く洗濯機の動く音。


優衣は嬉しそうに微笑んだ。

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