第75話

「これからも・・・優衣ちゃんが良かったら、ここに来てくれないかな?

僕、夜はここにいるから」


「1人でいた時・・・寂しくなかった?」


暗い病院のロビーを見ながら、優衣が呟くように聞いた。


「寂しくなかった。1人でいるのが当たり前だったから・・・」


優衣は亮太を見る。


「でも、これからは寂しくなりそう・・・」


亮太はうつむき、コーヒーの缶を握る。


「寂しくないよ」


優衣の声に、亮太の視線が優衣に戻る。


「これから・・・私もここに来てもいい?」


「無理しなくていいよ。

僕なら大丈夫だから」


「うん。無理な日は来ない。

けど、そうじゃない時は私もここに来てもいい?

亮太君の邪魔じゃなければ・・・」


「邪魔なんかじゃないって言ってるじゃないか」


亮太の顔に笑顔が戻る。


「ありがとう。僕達、友達だよね」


「友達・・・私が友達でいいの?」


「僕が友達でいい?」


お互いに微笑んだ。

言葉はいらなかった。


その微笑みがあれば、寂しくないと思えた。


2人しか分からない気持ちも、微笑み合えば伝わった。


「いつかどっちかがいなくなるまで、友達でいてね」


「いなくなっても友達だよ」


見えない絆があると、この時、強く感じた。


いつか、どちらかがこの場所に来なくなる日が来るかも知れない。


亮太か自分か。


少しでも多く、この夜を与えて欲しいと2人は願った。


強く強く願った。

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