第72話

「さっき黙っちゃったけど、本当は亮太君がいるんじゃないかって思って・・・ここに来たの」


亮太の顔は見れなかった。


「そうなんだ。何か・・・嬉しい。

僕も、また優衣ちゃんと話せたらいいなって思ってたから。

いつかまた優衣ちゃんと話せたらいいなって思ってたけど、まさか今日、来てくれると思わなかった。

警戒されたかなって・・・ちょっと不安もあったし。

でも、来てくれた」


亮太は少し照れた表情を優衣に見せる。


「ねぇ、亮太君」

優衣も亮太を見る。


「何?」と言うような表情を亮太は浮かべた。


「ねぇ、どうして1人でここにいるの?」


真っ暗なロビーを見渡す。


亮太も同じように見渡し「はっきりとした理由はないんだ」と答えた。


「別に理由はないけど、病室にいるよりもここにいた方が何となく過ごしやすかったから。

病室のベッドの上で横になって天井を見てると、何か窮屈に感じられて・・・このまま、この天井に押しつぶされるんじゃないかって・・・。

病室よりも、誰もいない広いこのロビーで時間を過ごした方が過ごしやすかった。

ただそれだけだよ」


「私が来ちゃって・・・邪魔じゃない?」


亮太は大きく首を振り「邪魔なんかじゃないよ!」と笑った。


安心したように、優衣も笑う。

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