第70話

優衣はエレベーターに乗り、1階に降りた。


やっぱり誰もいない夜の病院は怖い。


自動販売機の近くまで行くとすぐに分かった。


昨日と同じベンチに亮太が横になり、1人の時間を過ごしている。


優衣はカーディガンのボタンを閉め、自動販売機でジュースを買った。


その音に亮太が目を開け、頭を上げ、優衣のいる方向を見た。


「優衣ちゃん!」


亮太に名前を呼ばれ、少し嬉しい気持ちになる。


呼ばれる事を少し期待していた自分に気付く。


「亮太君」

優衣はジュースを手に持ち、亮太の横に座った。


「今日はココアな気分?」


亮太に言われ、無意識にココアを買ったのを知る。


正直、飲み物はジュースでも何でも良かったから、何も考えずにボタンを押した。


「亮太君は?何か飲む?」


優衣が「おごるよ」と言うような表情で聞くと亮太は首を横に振る。


「会いに来てくれたの?」


亮太に言われ、優衣は思わず目を逸らした。


「ごめん。ココア、飲みたかっただけだよね」


亮太も慌てて否定する。


「ううん。謝らなくてもいいよ」


会話が止まってしまい、優衣はココアの缶を握った。


空気の流れる音が2人の間を過ぎて行く。

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