第61話

「いつもここにいるの?」


「いるよ。9時くらいまではいるかな?」


「9時くらいに病室に戻るの?」


「うん。9時からテレビ見て、ゲームして寝るんだ」


「ゲームするんだ。私、あんまりゲームしないんだぁ」


「何をするのが好き?」


優衣は考えた。


いつも何をしていたんだろう。


いつも・・・。


いつも海人の事を考えていた。


明日、また会えるかな?

月曜日にまた会えるかな?


いつも海人の事を考えていたと言う事に気付いた。


「いつも・・・ボーっとしてる」

優衣の返事に、男の子が笑いながら「カワイイ」とコーヒーを飲んだ。


「ありがとう」

優衣も冗談っぽく頭を下げる。


「初めてだよ。ここで誰かに会って、こうやって会話したの」


「えっ?」


「今まで、この時間にここで誰かに会った事なかったから、君の姿を見た時はビックリしたけど、こうして話が出来て楽しいって思った。

入院してから結構時間が経つけど、生きてて良かったって思っちゃった」


男の子の言葉に、優衣の胸が苦しくなる。


それはきっと、この男の子も同じだろう。


「そう思ってもらえて嬉しいよ」


優衣は微笑み、男の子の方を向いて座ると、改めてお礼の気持ちを込めて頭を下げた。


「僕の名前は瀬戸亮太(セトリョウタ)。よろしくね」


「私は、桜優衣。よろしく」


入院生活で友達が出来るなんて思わなかった。


亮太にどれだけの時間が残されているのだろう。


気になったが、聞かなかった。


亮太が話してくれるまで聞かないでおこうと決めた。

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