第60話

「私、今週、入院したばかりなの。登校中のバスの中で倒れたみたいで・・・」


優衣もジュースの蓋を開け、一口だけジュースを飲む。


「僕は、結構前から入院してるんだ」


「そうなんだ・・・」


優衣はどう返事をしていいのか分からず、床を見る。


「君、カウンセリングは受けてるの?」

男の子に聞かれ「あなたも受けてるの?」と男の子の方に体を向ける。


「受けてるよ。たまにしか呼ばないけど、支えられるよね。

入院生活が長くなって来ると、同じように不安も増えて来て・・・。このままだったら僕にはあとどれくらいの時間が残されているんだろうって考えちゃう。

それで、どんどん不安になる。

でも、そんな気持ちも全部、カウンセリングの先生が受け止めてくれるから、精神的に支えになってもらえる」


「外出許可は?」


「うん。前は外出してたけど、最近はしてない」


「調子よくないの?」


「ううん。ただ、1人でブラブラするのも飽きちゃって。

買いたい物もそんなにないし、外出するのも面倒に感じられて来ちゃって。

最近は、夜ここに来るくらいかな?」


優衣は周りを見渡した。


誰もいない真っ暗な病院のロビー。


優衣は思わず体を小さくする。


「怖くない?1人でこんな暗い所にいるの・・・」


「怖くないよ。大丈夫」


男の子の答えに、優衣は苦笑いを浮かべる。


優衣は怖かった。


こんな真っ暗の中に座っているのは初めてだったから。

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