第56話
「あれ?どうかしましたか?」と優衣の姿に気付いたのは、【本田】と名札を付けた看護士だった。
「いや、別にどうもしてないんですけど・・・静かだから誰もいないのかと思って」
優衣は本田の前に立ち、歩いて来た廊下の方を見る。
「私の他には・・・誰もいないんですか?」
「気付きましたか?」
優衣は首を傾げた。
「先生には、桜さんが気付いたら話せばいいって言われてて。
気付いたみたいなのて、話しますね。
あっ、ここに座って」
本田はナースセンターの中に優衣を入れ、空いている椅子に優衣を座らせた。
「何かあるんですか?・・・怖い話ならやめて下さい」
思わず耳を塞いだ。
「大丈夫。怖い話じゃないから」
本田が笑いながら優衣の手を取った。
「実は、この病棟には入院患者さんは桜さんしかいないんですよ」
優衣は驚き、口に手を当てた。
通りで話し声がしないはずだ。
「お昼は検査の患者さんや、診療しに来た患者さんが病室を使ったりもしてるんだけど、入院患者さんは桜さんだけなの」
「それは、今だけですか?」
「いいえ。ずっと。
桜さんが入院してる間は、この病棟には桜さんだけしか入院しません」
「どうして?」
「それが、この病院のやり方だから」
「1人の自由を尊重するため?」
本田は頷き「そう。よく分かりましたね」と驚いたように答えた。
「他の階には入院してる人はいるの?」
優衣はナースセンターの壁に貼られた病院の見取り図を見て言う。
「他の階、病棟に入院してる患者さんはいますよ。
この病院は10階建てで他の病棟がいくつかあります。
その1つ1つに1人ずつ入院してもらってます。
入院できる患者さんの数は限られるけど、それも1人の患者さんの自由を尊重するために創られたルールなの。
この病院は他にはない特別な感じがするでしょ?」
「本当に・・・。入院してる事を忘れそうになる・・・。
でも、この病院がここまでの事をするのは、ここに入院する患者さんには残りの時間が限られているからですよね」
優衣の言葉に、本田は申し訳なさそうに小さく頷くだけだった。
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