第55話
その日、優衣は外出はしなかった。
夕食後、薬を飲み、ベッドの上でボーっとする。
1人暮らしの時より早い夕食。
1人暮らしの時より広い1人の空間。
1人暮らしの時には聞こえなかった空気の流れる音。
全てが1人暮らしの時とは違っている。
ドアを開ければ長い廊下があり、その向こうにはナースセンター、その角にエレベーターがある。
優衣はふと、自分以外の入院患者の存在が気になった。
この病院に入院し、この病室に来てから、1度も他の患者とすれ違った事もない。
他の病室から声が聞こえた事もない。
自分の他にどんな人がいるのか、優衣はふと気になった。
ベッドから降り、スリッパを履き、そのまま病室のドアを開ける。
廊下は異様な静けさに包まれ、看護士さんの声も先生の声も、患者らしき声も聞こえなかった。
「誰も・・・いないの?」
優衣は廊下に出た。
少し冷たい空気に、優衣の心臓の音が早くなる。
夜の病院の廊下はやっぱり不気味に感じてしまう。
そのまま廊下を進み、ナースセンターの前に近付くと、話し声がやっと聞こえた。
ナースセンターで夜勤の看護士が笑い、話している。
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