第53話

「桜さんに、特別に1日に1回の外出許可を出すよ」


優衣が思っていた言葉とは違い、優衣は安心したかのようにため息をつく。


「どうしたの?外出じゃ・・・不満だったかな?」


優衣は首を振り、「いえ、いきなりで・・・」と机の上のお茶を一口飲んだ。


「そっか、良かった。詳しい説明をしようと思うけど、いい?」


「はい。お願いします」


小原は微笑み、優衣に1枚の紙を渡す。


「1日1回、午前10時から外出許可を特別に出します。

外出する時は、ナースセンターにいる看護士に声を掛けるか、病室の前にこの札を掛けておくか、どちらかにして下さい。

はい、札」


優衣の膝の上に紐のついたしおりのような札が置かれた。


札は、真っ白で何も書かれていない。


「この札、桜さんが好きなように飾りつけしていいよ。

そのために真っ白にしてあるんだ」


優衣は札を取り、「楽しそう」と笑う。


「桜さんだって、いちいち看護士さんに声を掛けるのは面倒だったり、嫌な時だったりあると思うから、その時はこの札を病室のノブに掛けて外出すればいいから。

もちろん、札を掛けて看護士さんに声を掛けてもいいけど。

とにかく、外出してるんだって分かるようにしといて欲しいんだ。

いくら元気でも桜さんの体がいつ助けを求めるかは分からない。

だから外出してるのが分かるようにして外出するって事を約束して欲しい。

そうじゃないと、僕も医者として外出許可を出す事は出来ないからね」


優衣は小原の説明を真剣に聞き、「分かりました」と返事をする。


そんな優衣の姿に「桜さんは素直でいい子だね」と小原が微笑んだ。


「いい子じゃないよ。時には反抗だってするかもよ」


「するかもでしょ?

桜さんが反抗する時はちゃんとした理由がある時だよ。

桜さん、いい子なのは悪い事じゃない。

だけど、いい子にしようって無理に我慢したり、いい子な自分を演じようと頑張るのは駄目だよ。

桜さんの心が壊れてしまうから。いいね」


小原の言葉に優衣の胸が熱くなる。


「はい。大丈夫です。無理していい子にはならないから」


小原は頷き、「じゃあ、説明の続きをするよ」と微笑んだ。


「札の他にもう1つ。

外出の時は携帯の電源を入れて、持ち歩いて欲しいんだ」


優衣は気付いた。


入院してから携帯の電源を切り、そのままにしていた事に。

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