第52話

「はい」

優衣は自分に言い聞かせるように明るい声で返事をした。


「散歩に行こうとしてたんだって?せっかく散歩気分だったのに、申し訳なかったね」


小原はそう言いながらドアを開け、病室へと入って来た。


真っ白な白衣が似合っているのに、今更気付く。


「いえ、やる事がなかったから、暇つぶしに散歩でもって思っただけなんで、大丈夫です」


優衣はそう言いながら壁際に置かれた椅子をベッドの横に出し、小原に座ってもらった。


「そうだよね。桜さんみたいに若い子、こんな部屋にいるのは退屈だよね」


優衣は言葉が見つからず、ただ微笑んで頷いた。


「部屋に閉じこもってばかりじゃ気持ちが滅入るでしょ?

今のところ、これと言った大きな発作もないし、検査の数値もいいから、特別に許可しようと思うんだ」


優衣の頭には、いくつものハテナが並んでいる。


「数値のいい人には出来るだけ自由に過ごして欲しいんだ。

それでね、桜さんには特別に許可を出す事にしたんだ。

桜さんの主治医として、治療以外に僕がしてあげられる事はこれくらいだから」


小原はなかなか言い出さない。

優衣は頭にはいくつものハテナを浮かべながらも聞き続けた。


「カ、じゃなくて、高村先生には僕からも話しておくけど・・・桜さんからも話してあげて」


バスの中での事がバレてしまったのかと思い、優衣は黙ったまま小原を見ている。

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