第50話

「今度、担当する事になった子はね、桜優衣ちゃんって言うんだ。

すごくいい子。

果歩みたいな優しい子だよ」


暗い部屋で海人が小さく微笑む。


「でも・・・果歩にはなれない・・・。

星也には悪いけど、果歩・・・。

僕は果歩だけだから。

僕は果歩を忘れない・・・」


1人きりの部屋で海人が優衣の話をする。


「優衣ちゃん、本当は辛いのに、今日だけでも笑顔を沢山見せてくれたんだ。

本当はすごく不安なのに、笑ってくれるんだ。

支えなきゃいけないのは僕なのに。

僕の方が支えられてるような気持ちになる。

いつかあの子の笑顔が消えてしまうかと思うと、怖いよ。

果歩の時みたいに、あの子も突然・・・僕の前から消えちゃうんだ。

あんな気持ちはもう嫌だ・・・。

もう感じたくないあんな僕は・・・果歩だけでいい・・・」


海人の過去が脳裏に蘇る。


海人は過去から抜け出せない。


優衣は知らない海人の過去がある。


優衣には見せない海人のもう1つの顔。


海人は優衣には見せないよう、笑顔で優衣の前に存在しているのだ。


自分の気持ちを表には出さず。

優衣の前では笑って過ごそうと決めた。


それが、今の自分に出来る、唯一の事だから・・・。

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