第23話

その日の夜。


夕食と一緒に処方された薬が運ばれて来た。


見た事のない名前が薬の袋にも薬の粒にも印字されている。


「食後、1時間いないにお薬を飲んで下さいね」

前田と名札をつけた看護士が笑顔で説明してくれる。


「あっ、今日の夜勤担当の前田です。

何かあったら遠慮なく言って下さいね」


担当の椎名はもう帰ったのだろう。


「分かりました」


優衣は食事を食べながら薬を見ていた。


病院食は味が薄目だったけど、元々薄味を好んでいた優衣には丁度いい。


普段から薄味で良かったと感じる。


夕食を食べ終え、忘れないうちに薬を飲んだ。


カプセルだったから、何の味もしなかったけれど、どこか切なく感じた。


病気なんだ…。


『カウンセリングの先生、どんな人だろう…。年が近くて、出来れば女の人がいいな』


そんな風に思いながら窓の外を見る。


真っ暗な空が近くに感じられた。


あと4ヶ月で、この空の一部になるのだろうか…。


カーテンを閉め、優衣はベッドに入った。


家にいてもここにいても、特に変わった行動はしない。


ただ、真っ白の壁の部屋に移っただけ。


優衣の目がゆっくり閉じ、長かった1日が終わって行く。


始まりにすぎない1日が…。


幕開けの1日が終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る