第20話

それからどれだけの時間が過ぎたのだろう。


看護士が病室に入って来た。


「桜さん、お母様と連絡が取れました」

優衣は起き上がり、看護士の声に頷く。


「桜さん本人と話がしたいとおっしゃっていました。病院の電話を使いますか?ご案内しますよ」


「携帯があるんですけど、電話する時間だけでも外に行っても大丈夫ですか?」

病気の事が気になり、外に行くのも不安だった。


それくらい優衣の病気は深刻なもなのだ。


「大丈夫ですよ」と看護士が笑顔で言うと、「母には何て説明したんですか?」と優衣はうつむいた。


「本当の病気の事は一切伝えていません。血液に異常があり、正常に戻すために4ヶ月くらい治療のために入院が必要だと説明しました。…この理由じゃ…まずかったですか?」


優衣は首を振り、「いいえ、いいです。その話に合わせて母に連絡して来ます」と携帯を持った。


携帯を持つ手が震える。


母親は何て言うのだろう。心配しているに違いない。


母親にちゃんと嘘をつけるか、泣いてしまい言葉にならないのではないか。


そんな気持ちでギュッと携帯を握り、エレベーターで下まで降りる。

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