第19話

「大丈夫ですか?」


小原の優しい声に優衣はため息をついた。


いつもの時間に家を出て、いつものバスに乗り、今日から本格的なバイトをするはずだった。


いつもと変わらないまま、バイトだけが追加されるのだと思っていた。


¨いつも¨が続くと思っていた。


せめて、高校を卒業するまで続いて欲しかった。


続いて欲しかったのに。


けれどもう、そのいつかは戻って来ない。


もういつものバスには乗れない。


優衣の脳に病気が見つかったのだ。


その脳の病気の発作を起こし、今朝この病院に運ばれた。


それだけでもショックだったのに、もう1つ衝撃の告知を受けてしまった。


優衣に残された時間は、あと4ヶ月しかないと言う事実が告げられたのだ。


優衣は奈落の底に突き落とされたような気持ちに絶望するしかない。


「桜さん…ご両親への説明はどうしますか?」

看護士が優しく優衣に言う。


優衣は涙も見せず、

「脳の病気の事は言わないで下さい。適当な理由で4ヶ月だけ入院するって看護士さんから適当に話してくれませんか?

ただ、病気の事は言わないで下さい。

それから、学校にも連絡してもらっていいですか?

私からは上手く嘘が言えないので。看護士さんから適当な嘘をついてもらっていいですか?

すみません」と淡々と頼んだ。


涙も何も出なかった。


残りの4ヶ月。


優衣はこの病室で過ごす…。


病院での優衣が¨いつも¨になる。


もう、あのバスには乗れない…。


戻れない…。


もう、カイトに会えない。


優衣は病気になった現実よりも、カイトに会えない現実に絶望を感じた。


もう、何もない。

何もない自分がこれから、¨いつも¨になって行く…。

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