4.始まりの朝

第16話

次の日(火曜日)


優衣は放課後のバイトの準備もして、いつものように家を出た。


いつもの時間。

いつものバス。

いつもの席。


違うのは、今日からバイトをすると言う事。


それだけのはずだった。


いつものように、カイトが乗って来るバス停に着く。


『この先、この人…カイトにもっともっと近付けるようになるかな?』


そんな気持ちでカイトを見ていた。


ほんの少し、カイトに近付けたような気持ちになる。


そんな事を知らないカイトは、いつものように難しそうな本を読んでいる。


いつもと同じ。

いつもと同じカイトの姿。


けれど、何かが違う…。


何か今までとは違う違和感が優衣にはあった。


いつもカイトを見ている時とは違う胸のドキドキが優衣を襲っている。


ドキドキなんかじゃない。

少しずつ痛みが混ざって行く。


どんどんその痛みが強くなる。


「何?…これ…痛い…苦しい…」


ついに痛みだけが優衣を襲うようになった。


両手で痛む胸を抑える。


優衣はその場で体を丸くした。


脂汗が出て、呼吸の仕方も分からなくなって来た。


咳き込み、優衣は椅子から落ちるようにバスの通路でうずくまってしまった。


目を閉じ、意識も遠ざかって行く。


その時だ。


「大丈夫ですか?」と優衣の顔を男の人が覗き込み、優衣の背中を擦る。


その男の人は、優衣のすぐ後ろに乗っていた人で、たまに乗り合わせる人だった。


「運転手さん!緊急です!止めて下さい」


男の人の声にバスの運転手が大きく返事をする。


「すみ…ません。…大丈夫…ですか…ら」

優衣は微かな声で答えた。


目の前が少しずつ暗くなる。


バスが緊急停車し、ザワザワと声が聞こえる。


「大丈夫ですか?通して下さい」

優衣の体がフワッと持ち上げられた。


「このまま病院へ行きましょう。

僕、その病院に勤務してるんです。

一緒に行きましょう。大丈夫ですからね。

しっかりして!」


優衣の意識が途切れた。

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