第13話

次の日の朝。


優衣はいろんな気持ちを抱き、いつもの時間のいつものバスに乗り込んだ。


いつものバス停。


そのバス停でいつものようにカイトが乗って来る。


それもいつもと同じ光景だ。


小原と同じ仕事をしているのなら、あの難しそうな本を読んでいるのも納得できた。


小原の仕事は、ざっくり言えば心理学に関わるプロジェクトで、バイトもそのレポートをまとめる人材を募集したものだった。


優衣は文章を書くのは苦手ではない。


だから面接も迷う事なく受けられた。


レポートをまとめ、文章にするくらいなら出来るかも知れないと面接でも小原にアピールした。


もちろん、バイトをしたいのではなく、カイトとの距離を縮めるのが目的だったけれど…。


カイトの事は、小原には言わなかった。


バイトを通じて、まずは小原と親しくなり、いつかカイトに繋がればいいと思っていたから。


難しそうな本を読み、たまに眉間に皺を寄せるカイトの横顔を優衣は見つめる。


この日、カイトが降車ボタンを押す事はなかった。


いつものように優衣の方が先にボタンを押し、バスを降りる。


バスを降り、いつもと同じように振り返り、カイトの方を見た優衣は思わず頬を赤くした。


カイトが優衣を見ていたから。


初めて、カイトが優衣を見ていた。


初めてカイトと目が合った。


バスが走り出すとカイトはまた本に視線を移し、そのまま優衣を見る事はなかった。


いつものように難しそうな顔のカイトを乗せ、バスが走り出す。


優衣は力が抜けたかのように、その場に立ち尽くした。


動けなかった。


こんなんで、カイトに近付こうとしている自分に赤くなった。


カイトが見ていただけでこんなに赤くなるのに、親しくなんてなれるのだろうか…。


心が震えた。

体よりも心が。

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