3.幕開けの帰り道
第8話
6月18日(金曜日)
帰りのバスの中。
違う人が座っているカイトの席を見ていた。
優衣の近くで背中を向けて座っている人の脇から、1枚の紙が落ちる。
その紙は、優衣の足元にふわりと落ちて来た。
優衣は自然の流れで紙を拾い、落とした人の背中をトントンと叩く。
「落ちましたよ」と囁くように声を掛ける。
「あっ、すみません」
振り返った顔に優衣は言葉を無くす。
振り返った人物は、カイトと親しげに話していた男の人だったのだ。
「もしかして、興味ありますか?」
優衣は慌てて「あっ、すみません」と謝った。
何で謝ったのかお互いに分からなかった。
紙を渡さない優衣の姿に男の人が言う。
「もし良かったらもらって下さい」
「えっ?」
優衣の頭が混乱する。
「その紙…良かったらどうぞ」
男の人に言われ、優衣は拾った紙を見た。
そこには【バイト募集】と大きく書かれ、その下に詳細が書き込まれている。
「興味ありそうですか?」
優衣はやっと理解した。
自分の混乱した姿が恥ずかしく「はい」としか言えず、顔を上げられない。
「興味あったら是非」と男の人は言うと紙を指差す。
優衣はカイトの事を思い出した。
『この人と親しくなれば、カイトにも近付けるようになるかも知れない…』
そんな気持ちが優衣の中に生まれる。
「日曜日に面接があるんで、もし良かったら来て下さい。
僕、その面接の審査員の1人なんです」
男の人は笑顔でそう言うと、降車ボタンを押した。
昨日、カイトが降りたバス停で男の人は降り、最後に優衣に会釈をした。
1人、帰りのバスに揺られながら優衣は男の人が落とした紙を見た。
『バイトなんて興味はないけれど、カイトに近付けるチャンスになるかも知れない』
紙をギュッと握る。
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