第5話
窓の外の景色、そんなものはどうでも良くなっていた。
バスが止まり、ドアが開く。
あの人は立ち上がり、優衣に背を向け離れて行く。
いつもは降りないバス停で、あの人が降りて行く。
優衣より先に降りるあの人の背中を優衣は見続けてしまう。
いつもと違う姿を見てしまった。
あの人はバスを降り、その先にいた1人の男の人と仲良さそうに会話をしている。
「友達?」
優衣は思わず声に出して言ってしまった。
慌ててバスの席に座り、優衣は自分が降りるバス停がまでそのままバスに揺られた。
あの人が降りてから3つ目のバス停で優衣は降りる。
優衣場バスを降りてから、後ろを振り返った。
見えるはずもないのに、先に降りたあの人の姿を探してしまう。
『どうしてあそこで降りたんだろう?
あの男の人は友達なのかな?』
ただでさえあの人の事を考えてしまうのに、更に優衣の頭の中はあの人で独占される。
「おはよ!」
いきなり背中を押され、優衣は我に帰る。
どれくらいの間、遠くを見ていたのだろう。
「あっ、おはよう」
萌に返事をし、優衣は学校へと歩き出した。
横では萌が彼氏との惚気話をしている。
全く話を聞いていない優衣の姿に、「ねぇ、どうかした?何か悩みでもあるの?」と萌が心配そうに聞く。
優衣は慌て萌に首を振り、「ううん!ごめん!」と笑った。
萌にはあの人の事を話した事がない。
彼氏がいる萌に、自分のこんな話をする事がどうしても出来なかった。
授業中も、昼休みも、優衣は何も頭に入らなかった。
下校時間、優衣はいつものようにバスに乗った。
帰りのバスであの人に会った事は1度もない。
いつものように誰もいない家に「ただいま~」と入る。
今日は、何もする気になれなかった。
「明日…」
優衣はそう言うとカレンダーを見た。
明日は金曜日だ。
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