第4話

5月27日(木曜日)


いつもの時間に家を出て、いつものバス停でいつものバスに乗る。


あの人に会うために、このバスに乗る。


優衣が乗ってから3つ目のバス停。


このバスが近づくと、優衣はドキドキしてしまう。


毎日の事、もう2年目になると言うのに、この瞬間はいつもドキドキしてしまう。


3つ目のバス停でバスが止まり、ドアの開く音がする。


今日も何人目かで、あの人が乗って来た。

優衣はその姿に少し微笑み、窓の外を見る。


今日は少し曇っている。


バスが走り出し、優衣はあの人の姿をいつものように目で追う。


今日も難しそうな本を片手に、たまに眉間に皺を寄せながら読んでいるあの人。

いつものように、あの人を見ている時間。


その時だ。


あの人は今まで読んでいた本を閉じ、そのまま鞄の中に入れた。


『今日はもう読まないの?』


そう思いながら見ていると、あの人が降車ボタンに手を伸ばす姿が見えた。


『嘘…ここで降りるの?』


優衣はますますあの人から目が離せなくなってしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る