第2話

2年生になった今でも、あの人はいつもと同じバス停で乗って来る。


名前も何も知らない。


だから優衣は¨あの人¨と呼んでいる。


平日のこの時間のこのバスに乗れば、あの人に会える。


休日にも会えるかもしれないと考え、いろんな時間のバスに乗ってみた。


けれど、あの人には平日の朝しか会えない。


優衣が乗ってから3つ目のバス停。

そのバス停であの人が乗って来る。


そして今日も、あの人が乗って来るバス停が近くなり、優衣は制服のリボンを整えた。


2年目のリボン。


バスが停車し、ドアが開く。


何人目かにあの人が乗って来た。


優衣はいつものように前髪を整え、たまに窓の外を見たりしながら、あの人を見ていた。


いつものようにあの人は、片手に難しそうな本を持ち、読んでいる。


そして優衣の好きな仕草、唇を舐め、また難しそうなな表情で文字に目を向ける。


ちょっと頭の良さそうな姿も優衣は好きだった。


名前も、何歳なのかも知らない。

平日のこの時間のバスに乗れば会える事だけしか知らなかった。


そして今日も、優衣が降りるバス停が近づいて来た。


あの人の横を通り、バスを降りる瞬間、優衣はいつもドキドキしてしまう。


だから1番近い距離になってもあの人の顔を見る事が出来ないままバスを降りてしまう。


近過ぎて顔が見られない。


今日も優衣が降りるバス停が近づき、優衣は降車ボタンを押し、膝の上に置いた鞄を持つ。


バス停に止まり、ドアが開く。


優衣は立ち上がり、狭いバスの中を歩く。

あの人のすぐ横を通る。


今日も、あの人の顔を見る事が出来なかった。


目が合ってしまったら、どうしていいのか分からないから。


バスを降り、あの人を乗せたバスが走り出す。


バスが小さくなると、優衣も学校の方向へ向き、歩き出す。


また明日、あの人に会えるのを楽しみに、優衣は学校へと向かう。


こんな毎日が続くと思っていた。


ただ、あの人を見れるだけで、それだけで良かった。

せめて、高校を卒業するまでは、そんな毎日が続いて欲しかった。


それがある日、壊れてしまうなんて。


今の優衣は予想もしていなかった。


あの人をただ、見れるだけで良かったのに・・・。

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